2019年7月14日日曜日

● いだてん(2):ハマるドラマ、本当の面白さを訴える

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 番組は一日遅れでインターネットに月曜日に載る。
 これまで「Pandora」で観ていた。
 インターネットで無料モノといえばこれしかないのである。
 プロバイダーと契約すれば日本のテレビ番組のほとんどのモノが観られるという。
 警察もの、探偵もの、弁護士ものといった「***殺人事件」の類には全く興味がないので契約はしていない。
 まあ観てみたいと思うは「ドクターX」くらいであろう。
 今はやっていないが。
 もともと日本に居た時からテレビは見ない方なので、特に不満を感じることもない。
 あとはラマではないが「激レアさんを連れてきた」というのを観ている。
 「いだてん」だが、第二部の第一話までは観させてもらったが、それ以降は映らなくなってしまった。
 そのうちどこかでやってくれるだろうと思っている。


現代ビジネス 2019.07.14 折原 みと 漫画家・小説家
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65854

「いだてん面白くない」と脱落しかけた漫画家が熱烈にハマった理由
「食わず嫌い」はもったいない

ドラマをこよなく愛し、雑誌のドラマ企画座談会にも呼ばれている漫画家で小説家の折原みとさん。
いま一番ハマっているドラマが、なんと『いだてん』。
しかし、たしか始まってしばらくのときは「『いだてん』脱落しそう」と言っていたような……?
何がそんなに折原さんを変えたのか、本人に解説してもらった。

■視聴率ひとケタがニュースに

 みなさん、『いだてん』、観てますか? 
 そう、あの低視聴率で名高い(?)NHKの大河ドラマ、『いだてん~東京オリムピック噺』ですよ。
 2013年朝の連続テレビ小説『あまちゃん』で一大ブームを巻き起こした脚本家・宮藤官九郎氏が大河ドラマに初挑戦。
 歴史ある大河に新風を吹き込み、2020年の東京オリンピックを盛り上げる!
 ……はずだったこの作品だが、まさかの大惨敗⁉ 
 初回こそ視聴率15.5%とまずまずのスタートだったが、2回目から急激に失速。
 2月半ばから7月に至るまで、視聴率は連続ひと桁台を記録し続けている。
 一時は、ネットのニュースなどでも『いだてん』と言えば「低視聴率」の話題ばかり。
 「つまらない」「わかりにくい」「主役が地味」「脚本が悪い」果ては「受信料の無駄遣い」とフルボッコ状態だ。
 だがしかし、『いだてん』は本当につまらないドラマなのだろうか?


●主人公が阿部サダヲ演じる田畑政治になった第二部がスタートしたばかり NHKいだてん公式HPより

■「つまらない」と思っていたけど

 いやいや、「低視聴率」=「失敗作」と決めつけることなかれ。
 低視聴率にもかかわらず、『いだてん』を評価する声は決して少なくない。
 しかも、回を追うごとにその声は高まりつつあるようだ。
 実際、放送日の日曜夜には「感動!」「興奮!」「号泣!」といった視聴者の熱い声がSNS上に飛び交っている。
 とはいえ、視聴率が振るわない理由もわからないわけではない。
 今ではすっかりこのドラマにはまっている私自身も、物語の序盤はあまり面白いと思えず、うっかり脱落しそうになっていたからだ。
 戦国時代や幕末を描くことが大多数のNHK大河ドラマにおいて、今作は珍しい近代物。
 大河ドラマで近代が主な舞台になるのは、1986年の『いのち』以来だそうだ。
 しかも、主人公の金栗四三(かなくり・しそう)や田畑政治(たばた・まさじ)は、日本のスポーツ史上で重要な役割を果たした人物とは言え、一般にはまったく知られていない。
 名のある武将も英雄も出てこない。
 戦もなければ天下取りも討幕も明治維新も関係ない。
 そもそも、時代的にも題材的にも最初からハンデが大きかったのだ。
 いや、それはまだいい。
 子どもの頃から大河ファンの私でも、戦国時代と幕末の繰り返しにはいいかげん飽きていた。
 近代物という新鮮なジャンルを、クドカンがどう描いてくれるのかを大いに楽しみにしていたのだ。

■地味すぎ?

 が、いよいよドラマが始まってみると、中村勘九郎さん演じる主人公の金栗四三がどうにも地味すぎる。
 顔はイケメンとはいいがたく、性格は気弱で終始オドオドキョドキョド。
 台詞と言えば走るときの「スッスッハッハッ」と水浴びする時の「キエ~〜!」という奇声ばかり(言い過ぎか)。 
 ドラマ評でよく言われていることだが、明治・大正と昭和の時代を行ったり来たりする構成や、オリンピックの話なのに、間に落語パートがはさまって物語が寸断されることも、確かに視聴者がついていきにくい要因だったのだろう。
 しかも、金栗四三は、わかりやすく何かを成し遂げた人物ではない。
 日本初の代表選手として出場した1912年のストックホルムオリンピックでは、マラソン競技の途中に日射病で倒れて棄権。
 1916年のベルリンオリンピックでは、第一次世界大戦の勃発で大会自体が中止。
 1920年のアントワープオリンピックは16位。
 1924年のパリオリンピックは途中棄権。
 オリンピックに3度も出場しながら結果を出せない主人公。
 まったくカタルシスが得られない!!
 でも……。

■あれ、面白い? と思ったきっかけは

 あれ? 『いだてん』めっちゃ面白いよ!!
 遅ればせながらはっきりとそう思ったのは、6月に入ってからだ。
 第21回の「櫻の園」を観た時だったが、それから改めて、オンデマンドで1話から一気に見直してみた(残念ながら、出演者の薬物事件のために現在4話から8話までは配信されていない)。

 すると……面白い。
 1話からちゃんと面白いのだ!!

 なぜリアルタイムで観たときにはこの面白さに気づかなかったのだろう? 
 それは多分、仕事や何かほかのことをしながらの「ながら視聴」だったからだ。
 小ネタや細かい伏線が多く、テンポの速いクドカン脚本のドラマは、集中してみないと面白さが半減してしまう。
 朝ドラの『あまちゃん』は毎朝15分だから集中して観ることができた。
 が、1話45分の大河ドラマを、他に何もせずテレビの前に鎮座して観ることはなかなか難しい。
 それが、多くの視聴者が『いだてん』から脱落してしまった最大の原因だったのではないだろうか。

 面白いのに! 真面目に観れば! 
 とつけむにゃあ(とんでもない)面白いドラマなのに!!


●いまやTwitter上では『いだてん』にハマった漫画家やイラストレーターなどが「#絵だてん」のハッシュタグで『いだてん』関連のイラストを次々に投稿している イラスト/久世番子@bankolan

■『あまちゃん』に続き描いた震災

 特に第一部、金栗四三編終盤の数回は、圧巻としか言いようがない。
 女子校の教師となった四三。
 最初は「運動なんてしたらお嫁に行けなくなりますわ」と眉をひそめていたお嬢さま方は、四三の暑苦しいまでの熱意にほだされ、次第にスポーツの楽しさに目覚めていく。
 男性上位の思想に縛られていた少女たちが、生き生きと自我を解放していく描写には拍手喝采だ。
  一方、その頃、第一部のもうひとりの主人公とも言える日本スポーツの父・嘉納治五郎が長年夢見ていた神宮外苑競技場が、ついに完成しようとしていた。
 だが、そんな時、関東大震災が首都を襲ったのだ。


●6月23日放送だった震災後のシーン。「号泣!」「神回!」と評判を呼んだ NHK『いだてん』HPより

 クドカンが震災を描くのは『あまちゃん』に続き二度目だ。
 『あまちゃん』では主要キャラクターに犠牲を出さぬまま見事に東日本大震災を描いてくれたが、『いだてん』では、重要なキャラクターのひとりが被災して行方不明になってしまう。
 四三に憧れて陸上選手を目指していた女性、シマちゃんだ。
 関東大震災は、死者・行方不明者約11万人。
 浅草、日本橋など、広範囲にわたる街が火災で焼失した。
 変わり果てた街、焼け出された人々を前になすすべもなく立ちつくし、己の無力さに絶望した四三は、郷里の熊本に帰る。
 そこで家族の言葉から自分が何をすべきかを悟るのだ。
 「そもそも人間は無力たい。
 じゃけん、何も考えんで、今までん通り、馬鹿んこつ走ればよか!」
 東京に戻った四三は、救援物資を背負って走る、走る。
 そんな彼の姿に力づけられた人たちが、笑顔になっていく。
 そして、被災者の避難所となっていた神宮外苑の競技場で行われる復興運動会。
 それまでコツコツと積み上げてきた伏線や様々な人の想いが、すべて繋がり、結実する、怒涛のような第一部クライマックス……!!

■落語パートが必要だった理由

  ここまで来て、最初は邪魔だとさえ思っていた落語パートが、必要不可欠だったことにやっと気付いた。
 スポーツと共に被災した人たちを笑顔にしたのは、それまでろくでなしだった若き日の古今亭志ん生、森山未来演じる孝蔵の落語だったのだ。
 2011年の東日本大震災の時、多くの人たちが自分の無力さを痛感したことだろう。
 作家やアーティスト、スポーツ選手……、直接人の命や生活に関わらない職業に就いている人間は、特にだ。
 漫画家である私も、あの時悩んだ。
 「こんな時に、漫画なんて描いていていいんだろうか? 何の役に立つんだろう?」
……と。
 だけど結局は、自分にできることを黙々とやり続けることしかできなかった。
 みんなそうだ。
 それでいいのだ。
 私たちは何度も目にしてきた。
 スポーツや娯楽が、悲しみに打ち拉がれているいる人たちに笑顔や元気を与える様を。
 そして、ただ必死に生きている人たちの姿そのものが、他の誰かを励まし、勇気づけるのを。
 『いだてん』を観て、久しぶりにあの頃の気持ちを思い出した。
 どんなに打ちのめされても立ち上がる人間のたくましさと同時に、『いだてん』には、時代の先駆者となった人たちの情熱と苦労が描かれている。
 日本のオリンピックの歴史を切り拓いた嘉納治五郎や金栗四三たちはもちろんだが、女子スポーツの先陣を切った女性たちの物語も、このドラマの大きな見どころだ。
 「女子は運動なんてしなくていい」と言われていた時代に陸上選手を夢見たシマちゃんは、志半ばで震災の犠牲になってしまう。
 しかし、彼女の想いは日本初の女子オリンピック選手となった人見絹枝に受け継がれ、人見からまた、後世の女子スポーツ選手たちへと受け継がれていく。
 まるで、リレーのバトンを渡すように。

●シマちゃんに感動したあまり、「#絵だてん」に折原さん自ら投稿 イラスト/折原みと@mito_orihara

■英雄でない人の想いが大きな河になる

 「『いだてん』は大河ドラマらしくない」という理由でそっぽを向く従来の大河ファンも多いと聞く。
 しかし、名のある武将でも英雄でもない人たちの情熱が、夢の雫が、小さな流れとなって交わり合い、勢いを増し、やがて大きな河となって時代を動かしていく。
 合戦も天下取りも明治維新もなかろうと、それは立派な「大河ドラマ」なのではないだろうか。
 2020年の東京オリンピック開催が決定したのは、2013年の9月だった。
 東日本大震災からは2年半。
 まだ多くの人たちが避難生活や仮設所生活を送り、被災地の復興はまだまだこれからという時だった。
 正直、オリンピックなんかよりも被災された人たちのために税金を使ってほしいと思ったし、今もその気持ちに変わりはない。
 でも、『いだてん』のおかげで、来年にせまった二度目の東京オリンピックは、やはり世紀の大イベントであり、多くの人たちを勇気づける意味のあるもの……と思えるようになった。
 今から100年ちょっと前、たったふたりの日本人選手が初参加するのに四苦八苦だったストックホルムオリンピック。
 そこから始まった日本スポーツ界の世界への挑戦。
 女子スポーツ選手たちの自我の解放と闘い。
 1940年に東京で開催されるはずだった幻のオリンピック。
 第二次世界大戦を経て、戦後日本の復興の象徴となった、1964年東京オリンピック……。
 ちなみに、1964年大会のメインスタジアムであった国立競技場の前身は、明治神宮外苑競技場。
 関東大震災の時に被災者の避難所となり、あの復興運動会が行われた場所だ。
 2020年には、その場所に建て替えられた新しい競技場がメインスタジアムになる。
 そんな予備知識を持って来年のオリンピックに臨めば、きっと何倍も楽しむことができるだろう。


●「#絵だてん」に投稿された「祝・第一部完走! イラスト/星崎真紀@hoshizak

■折り返しの第二部も面白いのか

  『いだてん』は7月に折り返し地点を迎え、第二部がスタートしたばかりだ。
 時代は大正から昭和に移り、「日本にオリンピックを呼んだ男」と言われる田畑政治を主人公に、1964年の東京オリンピック招致に向けての物語が描かれる。
 実を言うと、第一部のクライマックスがあまりにも素晴らしかったために、第二部は、それを上回ることができるのだろうか?と、少しだけ危惧していた。
 が、そんな心配は無用だった。
 今の所、まだ第二部は2話分しか視聴していないが、ぶっちぎりで面白い!阿部サダヲ演じる新主人公「河童のまーちゃん」が、四三とは正反対のマシンガントークと愛嬌とハイテンションで大暴れだ。
 人見絹枝にスポットを当てた第26回は、女優初挑戦のダンサー、菅原小春さんの熱演もあって、ネット上では「神回!」と話題になった。
 日本人選手たちが世界で躍進する一方で、日本は戦争へと向かっていく。
 件の神宮競技場は、第二次世界大戦中に、学徒出陣の壮行会が行われた場所でもあるのだ。
 『あまちゃん』『いだてん』で震災と向き合ってくれたクドカンが、今度は20世紀最大の災禍である「戦争」をどう描くのか……。
 予想の斜め上をいくドラマを見せてくれるのではないかと期待している。

 ところで、念のために言っておくが、この記事はNHKに依頼されて書いている「提灯記事」ではない。
 頼まれてもいないし、お金ももらってないのに自主的に書いているのだ。
 なぜって? それは、「いだてん面白くない」という人たちの気持ちもわかるからだ。
 そして、そんな私が、今では「いだてんに夢中」だからだ。
 「真剣に集中して観なければ面白さがわからないようなドラマは、そもそも失敗なのだ」と言われてしまえば仕方ない。
 だけど1週間に45分間、真面目にテレビの前に(PCでもタブレットでもいい)座って観る価値が、このドラマにはあると思う。
 人には好みというものがある。
 もちろん真面目に観ても「つまらない」と思う方もいるだろう。
 だけど、視聴率が悪いからと言って、観もせずに「駄作」と決めつけるのは残念すぎる。
 一時は脱落しかけていた視聴者の言葉だからこそ、信じてほしい。

 まだ間に合う! 
 途中参加でも大丈夫です! 
 「東京2020オリンピック」を楽しむためにも、あと半年、『いだてん』と一緒に走ってみませんか?
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